こんにちは。歯科医師の鄭です。
先日、子供の頃からかかりつけの歯医者さんに10年ぶりに行って虫歯の治療をしてもらいました。
え?歯科医師が虫歯の治療を受ける?
はい。あまり大きな声で言えませんが、皆様を指導する立場にありながら歯科医師も人間ですから、虫歯にも歯周病にもなります。また、漫画「ブラックジャック」のように鏡を見ながら自分の歯を治療することも(ほぼ)できません。
自分自身が患者として治療を受けることがあまりにも久しぶり過ぎてちょっと緊張してしまいました。
ユニットに座り、問診をとり、レントゲン写真を撮り、治療が必要な個所を診断。
歯と歯が隣り合っているところに大きな虫歯がありました。不思議なものでしみる・痛む症状は全くありません。
まず注射の麻酔をする前に表面麻酔を塗ります。
普段はあまりおいしくありませんよと注意するこのゼリーは実際に塗ってみるとおいしくないというよりは苦くてしびれるといった具合でしょうか。それも結構すぐ効く。
数分おいたら注射の麻酔です。
刺入点はそんなに痛くないけれど、薬液によってぐっと押される感覚はある。と、頭では知っていても、その瞬間は両手をきつく合わせ麻酔が終わるのをただひたすら全身に力を入れてこらえていました。
麻酔が効くまで少し時間がかかりますからその間に歯周検査を行います。ポケット探針と呼ばれる道具を使って歯周ポケットの深さを測ります。
いっ、いたた・・・担当する衛生士さんの力加減によるところが大きいのですが、特に前歯部はなかなか痛く、つい体全体が反射的に逃れようと上方向ににじり寄ってしまいました。
続いて超音波スケーラーによる歯石除去を行いました。
全体的には痛くないといえるのですが、局所的に・瞬間的にピリッ!とくる個所がありました。
さて、このスケーリングの最中、「痛くないですか?」と聞かれます。つい反射的に「痛くないです」と答えてしまいましたが、これにはごく局所的に瞬間的に電撃痛があるんだけれどもそれをいちいち説明するよりもさっさと終わらせてくれ、という意味も込められているんだな・・・と再発見することができました。
さて、麻酔も効いてきたのでいよいよ虫歯の治療です。
まず、エナメル質をタービンを使って削っていきます。タービンとは正式にはエアータービンといい、圧縮空気を送り込むことで回転工具を1分間に数十万回転することができます。
麻酔とは偉大なもので、まったく痛くありません。もっとも、エナメル質を高速回転で削ること自体は麻酔をしなくとも基本的には痛くないものです。
続いて菌に侵された軟化象牙質を除去するためにコントラを使って削っていきます。コントラとは正式にはコントラアングルといい、タービンとは違い小型モーターのトルクで力強く回転する器具のことです。
より詳しい説明は日本歯科医師会監修テーマパーク8020をご覧ください。
https://www.jda.or.jp/park/trouble/index21.html
このコントラによる切削の振動が脳まで響く・・・。タービンは非常に高速なので削られていること自体ほとんど感じないのですが、このコントラによる切削は麻酔の効果なんのその、激しい振動が耳と脳を揺さぶります。もちろん全く痛くありませんが。
全て削り切れたかどうかはう蝕検知液による染出しを利用します。色が付いたところはまだ削り足りませんので追加で削ります。
続いてコンポジットレジンを注入し、青色の光を当てて効果させ、研磨をしたら完了です。
この虫歯を削って詰めるまでの一連の流れの中で一番つらかったのは意外にも、サクションで水を吸うことで口腔内および口角に至るまでカピカピに乾燥してしまうことでした。
歯科治療において唾液はあらゆる場面で邪魔者です。虫歯を削る、虫歯を詰める、根の治療をする、歯型を取る、被せものを装着する・・・
また、タービンは非常に高速で熱を持つため、注水下で行わなければなりません。これらを解決するために水を吸うサクションが必要なのですが、このサクションは水のみならずもちろん空気も吸いますので、この乾燥力はかなり強いものです。
残念ながらこれを解決する方法はちょっと思いつきません。治療のために乾燥させることと舌や頬が干からびてしまうことを防ぐことは相反するのでこれはどうしようもないなということに気が付きました。
以上歯科医師が虫歯の治療を受けた感想でした。
なお、これらはすべて顔を覆うタオルをつけて行いました。私は何をされるのか全てわかっているのですが、これが一般の方々ならどれほど怖いか・・・
この経験を日々の診療に生かそうと改めて考えさせられる一日となりました。